BtoBビジネスにおいて、検討段階の顧客の背中を後押しする「事例」は必須のコンテンツです。
しかし、いざ制作を検討しようとすると、「何から始めればいいのか?」「費用や期間はどれくらいかかるのか?」「どうすれば成功するのか?」といった疑問や不安が出てくるのではないでしょうか。
この記事では、BtoB企業の広報・マーケティング・営業企画などの発注担当者様に向けて、数多くの導入事例動画制作に携わってきたプロの視点から、企画・制作の具体的なプロセス、費用や期間のリアルな相場観、そして成果を最大化するためのポイントまで、一気通貫でしっかりと解説します。
1.導入事例動画とは?BtoBマーケティングにおける役割と重要性

導入事例動画とは、自社の製品やサービスを導入した顧客にインタビューを行い、その導入背景や活用方法、得られた成果などを語ってもらう動画コンテンツです。
特に、検討期間が長く、複数の意思決定者が関与するBtoBビジネスにおいては、
- 競合他社や同じ業界の会社が導入しているかどうか
- 他業界でも似たような課題をもつ企業がどのようにして課題をクリアしたか
- 導入後のサポートは充実しているか
- 導入にあたって、どのようなハードルがあるか
など、営業資料などだけでは推し量ることのできない、生きた情報として非常に重要視されるコンテンツです。
2. どうして今、BtoBで「導入事例動画」が重要視されるのか?
多くの企業が導入事例動画の制作に力を入れているのには、明確な理由があります。ここでは、BtoBビジネスにおいて導入事例動画がもつ4つの主要なメリットを解説します。
メリット | 詳細 |
---|---|
圧倒的な情報量と信頼性 | 動画は表情・声色・動きが伝わるため、短時間で多くの情報と文脈を届けられます。 非言語情報によって情報の量だけではなく説得力という「質」も高まり、視聴者は「自分ごと」として導入後の成功をイメージしやすくなります。 |
意思決定の推進 | BtoBビジネスの購入プロセスでは、複数の部門の担当者が関与するため、競合やベンチマークしている企業の利用実績は意思決定の後押しとなります。 |
多様なチャネルでの活用 | 一度制作した動画は、WebサイトやLPはもちろん、営業資料、展示会、ウェビナー、SNS広告、採用活動など、様々なチャネルで横断的に活用できる「デジタル資産」となります。 ワンソース・マルチユースにより、費用対効果を最大化できます。 |
顧客との関係強化 | 導入事例動画の制作は、顧客との接触機会を増やし、顧客との関係性を強化する絶好の機会となり得ます。 |
3.【担当者必見】導入事例動画の制作プロセス完全ガイド(7ステップ)

成果の出る導入事例動画は、戦略的な企画と体系化されたプロセスを経て生まれます。ここでは、中堅〜大企業の発注担当者がプロジェクトを主導するために、実務的な制作プロセスを7つのステップで具体的に解説します。
ステップ1:目的とKPIの明確化
制作を始める前に、まずは「誰に、何を伝え、視聴後にどんな心情を抱き、行動してほしいか」という動画の目的と役割を明確にします。合わせて、その成果を測るためのKPIも具体的に設定します。
目的の例:商談化率を10%向上させ、売上目標を達成する。
役割の例:商談化率を上げるための重要指標である、「顧客の課題解決イメージ」の醸成を促進する
KPIの例:動画経由のCVR、再生完了率、営業担当者による商談での利用回数など
ステップ2:取材先の選定
動画の良し悪しを大きく左右するのが、取材先の選定です。企業の知名度だけでなく、「自社が理想とする顧客像に近いか」「導入による明確な定量的・定性的成果があるか」「担当者が熱意を持って語れるか」といった点を考慮して慎重に検討します。
ステップ3:企画構成と質問設計
動画の設計図となる企画構成を作成します。BtoBの導入事例動画で最も効果的なストーリーラインは、「課題(Before)→導入の決め手→解決策(Solution)→成果・変化(After)」という構成です。このストーリーに沿って、インタビュイーのリアルな本音や具体的なエピソードを引き出すための質問を設計します。
ステップ4:撮影準備と当日の流れ
撮影場所、日程、撮影スタッフ、機材などを手配します。 特に、お客様のオフィスで撮影する場合は、会議室の確保や電源・照明の確認、周囲の騒音状況などを事前に確認する「ロケハン」が重要です。 当日の進行を把握するために、関係者全員の動きを時系列で記した「香盤表(こうばんひょう)」を作成し、事前に共有しておきましょう。
ステップ5:編集と修正ディレクション
撮影した映像素材を、構成案に沿って編集します。不要な部分をカットし、テロップや、世界観を演出するBGM・効果音、ブランドイメージに合わせたグラフィックなどを加えて動画を完成させていきます。
ステップ6:承認フローとガバナンス対応
中堅〜大企業では、制作した動画を公開するまでに、複数の部門による承認が必要となるケースがほとんどです。 特に、法務・コンプライアンス部門による表現内容のチェックや、顧客企業の広報・法務部門による最終承認は、時間がかかることを見越してスケジュールを組む必要があります。
より詳しい制作スケジュールや承認プロセスの管理方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。

ステップ7:公開と効果測定
全ての承認を経て完成した動画を、WebサイトやYouTube、SNSなどで公開します。しかし、公開がゴールではありません。ステップ1で設定したKPIに基づき、Google Analyticsや各SNSの分析ツール、アンケートやヒアリングを用いて効果測定を行います。再生回数や再生維持率、視聴者層、そして最終的なコンバージョンへの貢献度などを定期的に分析し、改善点や成功要因を次の施策に活かしていくことが重要です。
4. 導入事例動画の制作費用と期間のリアルな相場観

発注担当者にとって、最も気になるのが制作にかかる費用と期間でしょう。これらは動画のクオリティや要件によって大きく変動しますが、ここでは実務的な視点から、リアルな相場観を解説します。
費用を左右する3つの要素
導入事例動画の制作費用は、主に以下の3つの要素によって決まります。
企画・構成の複雑さ:誰が企画を主導し、どこまで作り込むか。構成案や絵コンテの作成、質問設計などを制作会社にどこまで依頼するかで変動します。
撮影の規模:撮影日数、撮影場所の数、スタッフの人数(カメラマン、音声、照明など)、使用する機材(カメラの台数、特殊機材の有無)など、撮影の規模が大きくなるほど費用は高くなります。
編集のクオリティ:テロップのデザイン、アニメーションやインフォグラフィックの量と質、ナレーションの有無、BGMの選定(オリジナル制作か、ライセンス購入か)など、編集の凝り具合によって費用が大きく変わります。
一般的に、シンプルな構成のインタビュー動画であれば30万円〜60万円程度から制作可能ですが、複数拠点での撮影や凝ったアニメーションなどを加えると、100万円〜200万円以上になることも珍しくありません。
具体的な費用プランや、コストを抑えるためのコツについては、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。

制作期間の目安とスケジュール
企画開始から納品までの標準的な制作期間は、約1.5ヶ月〜2ヶ月が目安です。ただし、これは顧客企業の協力や社内の承認プロセスがスムーズに進んだ場合の期間であり、関係者の調整が難航した場合はさらに延びる可能性があります。
フェーズ | 目安期間 |
---|---|
企画・準備フェーズ | 2〜4週間 |
撮影フェーズ | 1〜2日 |
編集・納品フェーズ | 2〜4週間 |
(予備期間) | 1〜2週間 |
特に中堅〜大企業の場合、顧客企業との許諾交渉や、自社の法務・広報部門のレビューに想定以上の時間がかかることがあります。プロジェクトを計画する際は、各所に確認期間を十分に設けた、余裕のあるスケジュールを組むことが成功の鍵です。
5. 成功する導入事例動画の構成パターンと参考事例
視聴者の共感を呼び、説得力を最大化するためには、ストーリー構成が極めて重要です。ここでは、BtoBで最も効果的とされる「型」と、具体的な構成例を紹介します。
BtoBで鉄板の「課題→解決→変化」ストーリー
多くの成功事例動画で採用されているのが、この王道のストーリーフレームです。視聴者は顧客の抱えていた課題に共感し、自社のサービスがどのようにそれを解決し、どのようなポジティブな変化をもたらしたのかを追体験することで、サービス導入後の成功イメージを具体的に描くことができます。
構成要素 | 語るべき内容 |
---|---|
課題(Before) | 導入前にどのような課題を抱えていたか。具体的な数値やエピソードを交えて語ることで、説得力が増します。(例:「毎月20時間かかっていた手作業」「属人化によるミスの多発」) |
導入の決め手 | なぜ自社のサービスを選んだのか。他社製品と比較した際の優位性や、社内での合意形成のプロセスを語ることで、視聴者の比較検討を後押しします。 |
解決策(Solution) | サービスをどのように活用して課題を解決したか。具体的な利用シーンや、導入時のサポート体制について触れることで、活用のハードルを下げます。 |
成果・変化(After) | 導入後、どのような定量的・定性的成果が出たか。具体的な数値(コスト削減率、生産性向上率など)や、社員の意識変化などを語ることで、投資対効果を明確に示します。 |
業界別・目的別の構成例
基本的なフレームは共通ですが、ターゲットとする業界や動画の目的に合わせて、訴求ポイントを調整することで、より効果を高めることができます。
ターゲット | 構成のポイント |
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IT/SaaS業界 | 機能の優位性だけでなく、導入後のサポート体制や、他システムとの連携のスムーズさを強調する。 |
製造業 | 現場の生産性向上や、品質管理の徹底、技術継承といった具体的な課題解決を、現場の映像を交えてリアルに見せる。 |
コンサルティング/専門サービス | 属人化しがちなノウハウを、いかにして組織の力に変えたか。具体的な方法論や、組織文化への好影響をアピールする。 |
より多くの成功事例や、業界別の動画サンプルはこちらの記事で詳しく紹介しています。

6. 成果を最大化する!導入事例動画の制作・活用のポイント

制作した動画の価値を最大限に引き出すためには、制作段階での細やかな設計と、公開後の戦略的な活用が不可欠です。ここでは、実務経験者だからこそ語れる、失敗を回避し成果を高めるためのチェックポイントを解説します。
制作で失敗しないためのチェックポイント
チェック項目 | 具体的なアクション |
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顧客への配慮不足 | 取材依頼時に、動画活用のメリットだけでなく、想定される拘束時間や確認作業の負荷を正直に伝える。手土産や完成動画の提供も検討する。 |
「言わされている感」の回避 | 事前に質問票を渡し、回答を丸暗記してもらうのではなく、キーワードだけを伝えて、当日は自然な会話の中から本音を引き出す。 |
法務・ガバナンスの見落とし | 撮影前に、顧客企業の広報・法務部門と、ロゴや商標の使用範囲、競合他社への言及レベル、公開後の修正対応などについて、書面で合意しておく。 |
クオリティの担保 | 撮影当日は、インタビュイーの語りに最大限の注意を払う。音声が聞き取りづらい、顔が暗い、固くなってしまっているなどは視聴者の離脱に直結する。 |
制作現場で役立つ、より詳細なチェックリストや実践的なテクニックはこちらの記事で解説しています。

動画の価値を高める活用方法
導入事例動画は、Webサイトに掲載するだけでは非常にもったいないでしょう。以下のようなシーンで活用することで、その価値を何倍にも高めることができます。
営業資料として:商談の冒頭で顧客の業界に近い事例動画を見せることで、一気に信頼を獲得し、その後の提案がスムーズになります。
展示会・イベントで:ブースのモニターで繰り返し再生することで、来場者の足を止め、興味を引くきっかけになります。
採用活動で:自社製品が社会にどう貢献しているのかを示し、候補者の応募意欲を高めます。
SNS広告で:30秒程度のダイジェスト版を作成し、ターゲットを絞って配信することで、効率的に潜在顧客へアプローチできます。
7. FAQ|導入事例動画の制作に関するよくある質問
- 導入事例動画の費用相場はどれくらいですか?
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撮影の規模や編集の凝り具合によりますが、30万円〜100万円程度がボリュームゾーンです。シンプルなインタビュー形式であればコストを抑えられ、アニメーションや複数箇所の撮影などを加えると高くなる傾向があります。
- 導入事例動画の制作期間はどれくらいですか?
-
企画開始から納品まで、約1.5ヶ月〜3ヶ月が一般的な目安です。 なお、顧客企業の協力体制や社内の承認プロセスによって変動するため、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。
- 成功する事例動画の構成に「型」はありますか?
-
「課題→導入の決め手→解決策→成果」という構成がBtoBでは最も効果的です。視聴者が自分の状況と重ね合わせやすく、導入後の成功イメージを具体的に描けるためです。
- 導入事例動画はどのような業界で活用されていますか?
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IT・SaaS業界から製造業、コンサルティング、人材サービスまで、あらゆるBtoB業界で活用されています。無形商材や複雑なサービスほど、動画による「見える化」の効果は高く評価されています。
- 導入事例動画の制作を依頼する際の注意点は何ですか?
-
制作会社の実績を必ず確認し、自社の業界や製品カテゴリーでの制作経験が豊富であることが重要です。また、担当者との相性や、プロジェクト進行の透明性も判断基準になります。
8. まとめ:戦略的な導入事例動画でビジネスを加速する
本記事では、BtoBビジネスにおける導入事例動画の制作について、企画から制作プロセス、金額相場、そして成功のポイントまでを徹底的に解説しました。
重要なのは、制作すること自体を目的とせず、明確な目的意識を持って、戦略的に企画・制作・活用することです。この記事が、貴社の導入事例動画制作プロジェクトを成功に導き一助となれば幸いです。
より具体的な制作の進め方や、個別の課題については、以下の関連記事もぜひご参照ください。



