新卒採用に関して、企業の理念や価値観を伝える「コンセプト動画」の重要性は理解していても、「どう作れば学生に響くのか」「制作の進め方がわからない」と悩む採用担当者は少なくありません。
納期と品質のはざまで迷いが生まれやすく、社内稟議の壁も高い——。
本記事では、そんな新卒採用向けのコンセプト動画について、制作のポイントや制作工程について解説しています。ぜひご一読ください。
コンセプト動画とは?新卒採用で重要視される理由

コンセプト動画とは、企業の理念やビジョン、カルチャーなどの「目に見えない価値」を、ストーリーや映像で伝える動画です。
条件だけでは動かない学生に、“言葉以上の温度”を届ける手段です。理念や価値観を映像で可視化することで、学生の共感を促し、感情による態度変容やネクストアクションを引き出すことを目的とします。
会社紹介動画との違い
コンセプト動画 | 会社紹介動画 | |
---|---|---|
目的 | 共感・憧れの醸成(感情喚起) | 企業・事業情報の理解促進(事実伝達) |
主な内容 | 理念、ビジョン、価値観、EVP、社員の想い | 事業内容、沿革、採用情報、福利厚生 |
表現方法 | ストーリーテリング、インタビュー、イメージ映像 | ナレーション、テロップ、インフォグラフィック |
KPIの例 | 視聴完了率、魅力度、ブランドリフト | 視聴回数、ウェブサイトへの流入数 |
なぜ今、コンセプト動画が重要なのか?
Z世代を中心とする現代の就活生は、給与や残業といった条件面だけでなく、企業の理念や社会貢献性、自身の成長可能性といった「働きがい」を重視する傾向にあります。
その「働きがい」を共感によって訴求するのが、コンセプト動画の役割です。
以下で、なぜ顧客の「共感」を得るための手段として、コンセプト動画が有効なのかを説明します。
3Vの法則(メラビアンの法則)
メラビアンの法則とも呼ばれる、アメリカの心理学者が提唱した有名な法則があります。
話し手が聞き手に与える影響には「言語情報(Verbal)」「聴覚情報(Vocal)」「視覚情報(Visual)」の3つがあり、下のグラフの割合で影響度が大きいとされています。

ご覧いただければわかる通り、圧倒的に「視覚情報」つまり目から入ってくる情報が
聞き手に与える影響は大きいのです。
テキスト情報の5000倍と言われる動画の情報量
動画が持つ情報量はテキスト情報の5000倍とも言われています。
視聴者がテキストの5000倍の情報をもらさずに受け取ることができるかどうかはさておき、
もともとの情報量が多いため、仮に視聴者がテキストと動画の2つの媒体に同じ時間触れたとすると
圧倒的に動画から入ってくる情報が多くなるというのはおそらくご自身の実体験からも納得のいくものではないでしょうか。
共感を促すために必要なのは情報量
視聴者にその企業が持つ魅力や物語に「共感」してもらうためにはそれ相応の情報量が必要になります。
例えば、感動的なドラマや映画を観て涙することがあったとします。
涙するのはどのドラマや映画のストーリーを通じて登場人物やそのシチュエーションへの「共感」があるからです。
30分あるいは1時間の間そのストーリーを目にしていたからこそ、実際には無い物語と存在しない登場人物に共感し涙してしまうというのは誰しも経験があるのではないでしょうか。
つまり、「共感」するためにはそれに足るだけの情報量が必要なのです。
そして、動画であれば少なくとも視聴者へ与える情報量を他の媒体よりも担保しやすい分「共感」が
重要なポイントとなる採用コンセプト動画においてより強力な効果を発揮しやすいと言えるのです。
【3秒で惹かれる】コンセプト動画のフック設計10パターン
特にスマホ視聴では、スワイプで流されてしまうまでの最初の3秒が勝負です。心を掴む入口を設計できれば、最後まで見てもらえる確率が跳ね上がります。
ここでは、学生の心を一瞬で掴むための、効果的な10種類のフックを具体例とともに紹介します。
フックの種類 | 具体例 | ポイント |
---|---|---|
質問型 | 「あなたは何のために働きますか?」 | 視聴者への問いかけで、自分事化を促す |
ギャップ型 | 「私たちはIT企業ではありません。未来を創る集団です」 | 意外性で興味を引き、企業の本質を伝える |
数字型 | 「入社3年目で、90%がリーダーに」 | 具体的な数字で、成長性や実績を提示 |
挑戦型 | 「普通の会社では満足できないあなたへ」 | 挑戦的なメッセージで、意欲層に刺す |
ビジュアル衝撃型 | (息をのむ風景、ダイナミックなモーションなど) | 映像の力で一瞬で世界観に引き込む |
音響先出し型 | (特徴的な効果音、心拍 音、キーボードの連打音など) | 何が始まるのか期待を高める |
社員の一言型 | 「この仕事、最高に面白いですよ」 | リアルな言葉で親近感と信頼感を醸成 |
価値観宣言型 | 「私たちは、失敗を恐れない」 | カルチャーを端的に示し、共感を喚起 |
問題提起型 | 「なぜ、多くの人が仕事を楽しいと思えないのか?」 | 社会・業界の課題を提示し、存在意義へ接続 |
ストーリー導入型 | 「ある社員の1日は、こんな言葉から始まる」 | 物語の導入を示し、続きへの期待を生む |
コンセプト動画制作の全体像|工程・期間・成果物

動画制作の全体像が見えないと、「今、何をしているのか」「何のための作業なのか」がわからなくなりがちです。全体で6〜8週間に及ぶ制作工程を地図のように押さえておくことで、進行は格段にスムーズになります。
ここでは、各工程の具体的な作業内容、期間、クライアントと制作会社の役割分担を解説します。
工程 | 目安期間 | クライアント作業 | 制作会社作業 | 主な成果 |
---|---|---|---|---|
1. 要件定義 | 1週間 | EVPの整理、目標とKPIの設定、参考動画の共有 | ヒアリング、リサーチ、要件定義書の作成 | 要件定義書 |
2. 企画構成 | 1〜2週間 | 構成案・台本の確認、フィードバック | メッセージ設計、ストーリー構成、絵コンテ・台本作成 | 構成案、絵コンテ、台本 |
3. ビジュアルデザイン | 1週間 | デザイン方向性の確認・承認 | スタイルフレーム(デザイン見本)の作成 | スタイルフレーム |
4. 撮影 | 1〜2日 | 出演者・ロケ地の調整、立ち会い | 撮影準備、撮影実施 | 撮影素材 |
5. 編集・MA | 2〜3週間 | 初稿確認、修正指示は1回に集約 | 編集、モーショングラフィックス、BGM/SE選定、MA | 初稿、修正稿 |
6. 納品 | 1週間 | 最終確認・承認 | 最終調整、各フォーマットでの書き出し | 完成動画ファイル |
失敗しないコンセプト動画の構成とメッセージ設計
優れたコンセプト動画の多くは、練り上げられた構成と、研ぎ澄まされた単一のメッセージでできています。情報を詰め込み過ぎると、結局何も伝わりません。伝えたい核心的な価値(EVP)を1つに絞り、感情を動かすストーリーとして編むことが「共感を生む」ための要諦です。
【フォーマット別】配信先に合わせた動画設計のポイント
視聴環境で伝わり方は変わります。フォーマットを“器”、メッセージを“水”と捉え、器に合わせて最適な形に整えましょう。特にスマートフォン視聴が主流の今は、縦型(9:16)を基本に据え、他フォーマットへ展開する発想が有効です。
フォーマット | アスペクト比 | 主な配信先 | 推奨尺 | 設計のポイント |
---|---|---|---|---|
横型 | 16:9 | 採用サイト、YouTube、説明会 | 90秒〜3分 | 情報量を多めに、ストーリーをじっくり見せたい場合に最適 |
縦型 | 9:16 | TikTok、Instagram Reels、YouTube Shorts | 15〜60秒 | スマホ視聴に特化。冒頭のフック最重視。テンポと視覚インパクトを意識 |
正方形 | 1:1 | Instagramフィード、Facebook | 〜60秒 | タイムラインでの視認性が高い。大きめテロップで無音視聴に対応 |
実写 vs MG vs ハイブリッド|最適な表現方法の選択
「誰に、何を、どう感じてほしいか」から逆算して表現を選ぶと、過不足のない洗練された動画に仕上がります。メッセージとブランドイメージに照らして、最適解を選びましょう。
表現方法 | 強み | 弱み | 向いているケース |
---|---|---|---|
実写 | 社員の表情や職場の空気が伝わる/感情移入を促しやすい | 撮影にコストと時間/抽象概念は表現しづらい | 人柄・カルチャーフィットを伝えたい |
モーショングラフィックス(MG) | 抽象概念やデータを視覚化/ブランドトーンを統一しやすい | 体温感は下がりやすい/専門スキルが必要 | ビジョンやビジネスモデルをわかりやすく伝えたい |
ハイブリッド | 実写とMGの長所を両立/飽きにくい | 設計が複雑になりがち/コスト増傾向 | 多くの企業で採用されるバランス型 |
台本・絵コンテの作り方と注意点

台本と絵コンテを先に磨いておくと、撮影も編集も手戻りが激減します。ここで品質を担保できるかが、プロジェクトの成否を分けます。
台本作成のポイント
ナレーションやセリフ、テロップのテキストを書き出します。1分間のナレーションは約300字が目安です。提出された台本は必ず音読し、不自然な言い回しがないかを確認しましょう。無音視聴を前提に、重要メッセージはテロップで補足します。
絵コンテ作成のポイント
台本に合わせて、各シーンの映像イメージをイラストや写真で具体化するのが絵コンテです。カメラのアングルや動き、テロップ配置まで指定されているかを確認し、完成映像を思い描きながらレビューしましょう。
コンセプト動画の費用相場とスケジュール
見積もりの数字に振り回されないために、相場の“幅”と費目の“理由”を押さえましょう。判断が早く、交渉も的確になります。
コンセプト動画の費用は、企画内容、撮影規模、表現方法などによって大きく変動します。以下に、価格帯別の一般的な制作内容とスケジュール感を示します。
費用相場 | 制作内容 | スケジュール目安 |
---|---|---|
60~80万円 | シンプルな構成、既存素材や社員撮影が中心、1フォーマット(16:9)納品 | 4~6週間 |
80~120万円 | オリジナル撮影(1日)、モーショングラフィックス追加、2フォーマット(16:9/9:16)納品 | 6~8週間 |
150万円~ | 綿密な企画構成、複数日撮影、高度なモーショングラフィックス、プロのナレーター起用、3フォーマット納品 | 8~12週間 |
費用を抑えるコツ
・素材提供:自社で撮影した映像や写真素材を提供する
・出演者:社員に出演してもらう(肖像権の許諾は必須)
・修正回数:修正指示を1回にまとめ、追加修正を減らす
・フォーマット:納品フォーマットを1種類に絞る
KPI設計と効果測定の方法
作って終わりにしないために、“測る→直す”をルーチン化しましょう。分析結果に基づいてテロップや構成を見直せば、次年度の訴求にも大きな示唆が得られます。
動画は作って終わりではありません。効果を測定し、改善に繋げることが重要です。事前にKPI(重要業績評価指標)を設定し、効果測定の体制を整えましょう。
設定すべきKPIの例
視聴指標:動画自体の魅力を測る指標
・3秒視聴維持率:フックが機能しているか
・視聴完了率:ストーリーが魅力的か
エンゲージメント指標:視聴者の反応を測る指標
・CTR(クリック率):CTAが機能しているか
・シェア、コメント数:共感の度合い
コンバージョン指標:採用活動への貢献度を測る指標
・説明会申込率、エントリー率
・内定承諾率
Google Analytics 4 (GA4)での計測設定
GA4のイベント設定を活用し、動画の視聴状況を詳細にトラッキングできます。video_start
(視聴開始)、video_progress
(視聴進捗)、video_complete
(視聴完了)、cta_click
(CTAクリック)などのイベントを設定し、採用サイト上でのユーザー行動を可視化しましょう。
社内稟議と権利対応の進め方【チェックリスト付】
最後に止まりがちな稟議と権利。最初に片づけておくほど、プロジェクトは滑らかに進みます。未来の“詰まり”を今、解消しましょう。
動画制作をスムーズに進めるためには、事前の社内調整と、複雑な権利関係の整理が不可欠です。以下のチェックリストを活用し、トラブルを未然に防ぎましょう。
社内稟議を成功させるポイント
・目的とKPIの明確化:なぜ動画が必要で、何を目指すのかを具体的に示す
・費用対効果の提示:採用単価の削減や応募者数の増加といった観点から投資対効果を説明する
・複数パターンの見積もり:松竹梅の3パターンの見積もりを提示し、予算に応じた選択肢を用意する
権利対応チェックリスト
企画前
✅ EVP(従業員価値提案)の言語化と合意形成
✅ ターゲット学生像の明確化
✅ 競合他社の動画調査と差別化ポイントの整理
制作前
✅ 出演者(社員・役員含む)の肖像権利用許諾(書面)
✅ ロケーション撮影場所の撮影許可
✅ 使用するBGM・効果音の商用ライセンス確認
✅ 使用するフォントの商用ライセンス確認
公開前
✅ 第三者の映り込みがないか最終確認
✅ 個人情報・機密情報が映り込んでいないか確認
✅ 二次利用(広告利用、イベントでの放映など)の範囲について制作会社と合意
よくある質問(FAQ)

現場でよく受ける質問を先回りで解消します。疑問が減るほど、プロジェクトは速く、強く進みます。
- コンセプト動画と会社紹介動画の違いは?
-
会社紹介動画が事業内容や沿革といった「事実」を伝えることを目的とするのに対し、コンセプト動画は企業の理念や価値観といった「目に見えない価値」を伝え、視聴者の「感情」に訴えかけることを目的とします。
- 尺は60秒と90秒どちらが良い?
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配信先と伝えたい情報量によります。TikTokやInstagram Reelsなどのショート動画プラットフォームでは60秒以内、採用サイトやYouTubeでじっくり見せたい場合は90秒以上が目安です。迷った場合は、汎用性の高い60秒で制作し、必要に応じて長尺版や短尺版を追加制作するのがおすすめです。
- 実写とMGどちらが向いている?
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社員の人柄や職場の雰囲気をリアルに伝えたい場合は「実写」、企業のビジョンやビジネスモデルなど抽象的な概念をわかりやすく伝えたい場合は「モーショングラフィックス(MG)」が向いています。両者を組み合わせた「ハイブリッド」が最も表現の幅が広く、多くの企業で採用されています。
- 短納期の条件は?
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通常6~8週間かかる制作を4週間程度に短縮するには、クライアント側の協力が不可欠です。具体的には、①社内の承認プロセスを一本化し、フィードバックを48時間以内に行う、②企画段階で要件を完全に固め、途中で変更しない、③必要な素材(ロゴ、写真など)を事前にすべて提供する、といった条件が求められます。
- KPIは何を見る?
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KPIは「視聴指標」「エンゲージメント指標」「コンバージョン指標」の3つの階層で設定します。具体的には、①3秒視聴維持率や視聴完了率、②CTAクリック率やシェア数、③説明会申込率やエントリー率などを計測し、動画が採用活動全体にどのように貢献しているかを多角的に評価します。
まとめ
ここまでのポイントを改めて整理し、ネクストアクションを明確にしましょう。採用動画の目的と役割が明確であるほど、企画の精度は上がり、仕上がりのクオリティも向上します。
本記事では、新卒採用を成功に導くコンセプト動画の作り方について、企画から制作、効果測定までを網羅的に解説しました。重要なのは、自社ならではの価値(EVP)を明確にし、それを感情に訴えかけるストーリーとして構成することです。今回ご紹介した内容をご参考いただき、ぜひ学生の心を動かすコンセプト動画制作に挑戦してみてください。
情報整理や予算の検討などの事前準備がご不安な方は筆者がお手伝いいたします。
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