今この記事を読んでいる方の中には、「プロに依頼したはずの動画制作が思うようにいかず、失敗してしまった…」という経験をお持ちの方がいらっしゃるでしょう。
動画制作に限らず、「外注」する理由は大きく2つで、
- 外注したほうがコスパが高いから
- 社内にノウハウがなく、「できない」から
なのですが、だからこそ外注したのに失敗してしまうと発注側の担当者としては、腹立たしい気持ちでいっぱいではないでしょうか。筆者も動画制作に携わる1人として、そのような状況に置かれてしまった方がいることを考えるととても心苦しい気持ちになります。
しかし、動画制作が失敗に終わってしまうのは決して制作会社のせいだけではありません。
筆者は制作会社側の人間ですが、フリーランスクリエイターに発注する立場の経験も多くあるため、受託側・発注側の双方の視点で「動画制作が失敗してしまう理由と対策」について解説します。
代表的な3つの失敗例
あくまでも筆者の経験則ですが、動画制作が「失敗」したと結論付けられるケースは大きく3つのパターンに集約されます。それは、
- 完成した動画のクオリティに満足できない
- コミュニケーションがスムーズにいかなかった
- 納期が大幅にずれた
…という3つです。
それぞれ解説してみます。
1:完成した動画のクオリティに満足できない
「動画のクオリティに満足できない」という場合、その原因は大きく下記の3つです。
- 制作会社側の説明不足
- 制作予算が少なかった
- 「クオリティ」についての認識の相違
1:制作会社側の説明不足
動画のクオリティに満足できない場合、最も可能性が高い原因はこれです。制作会社側は顧客に見積りを提示する際には必ず、見積り金額でどの程度のクオリティの動画が制作できるのかのサンプルを提示します。
更に、どのサンプルと同等のクオリティの動画を制作する条件も一緒に提示し、「ここまではできます」「これがこうなると、この部分のクオリティの担保は難しいです」などできるだけ細かく説明し、顧客側の期待値の調整と理解の獲得に努めます。
そのため、基本的には「クオリティに満足できない」という失敗は起きにくいはずですが、起きてしまう場合には上記のような説明が不足していたために、顧客側の理解を得られておらず、期待に応えられないという結果につながってしまいます。
2:制作予算が少なかった
1の「制作会社側の説明不足」にも繋がりますが、制作予算が少ないために想定したクオリティを実現できないケースもあります。
例えば、実写の動画で撮影が必要な場合には、基本的には撮影場所の下見(ロケハン)を行い現地の状況を把握した上で撮影当日のために準備します。当然この下見(ロケハン)にも工数がかかるため、無料で行うことはできません。
また、外での撮影の場合には「天気予備」と言って、悪天候の場合の予備日を確保するのですがそれにもやはりお金がかかります。撮影当日だけであれば、1日分の人件費で済むのですが、天気予備を確保するためには1.5〜2日分の人件費が必要になるため、やはり予算が少ないとこの「天気予備」を確保することはできません。
以上のように、制作予算を削ると「できればしておきたいリスクヘッジ」ができなかったり、現場スタッフの数を減らすことで現場での臨機応変な対応ができなかったりなど、クオリティを担保するための行動が起こせなくなってしまうのです。
もちろん、このことについては事前に制作会社側から顧客側へ説明する必要がありますが、顧客側から提示された予算では「ロケハンはできない前提」で進められてしまうケースも考えられるため、本記事では敢えて「制作予算が少ない」ために起きうる失敗として紹介させて頂きました。
「クオリティ」についての認識の相違
例えば、「動画のクオリティ」と聞いて、真っ先になにをイメージしますか?
- デザイン
- BGM
- ナレーション
- テロップ
- 撮影された画
- アニメーションの動き方
…などなど、細かく挙げると意外とその数は多くなります。しかし、それをあまり深く考えずに一口に「動画のクオリティ」と表現して共通認識を獲得した気になってしまうことは少なくありません。
もちろん、それで問題ないケースもあるのですが、動画制作が失敗する場合はその点の詰めが甘かったりズレてしまっていたりすることがあります。
この場合もやはり、制作会社側が積極的に把握するべきではあるのですが、顧客側からもできるだけ具体的に「何をクオリティだと考えているか」を伝えるようにするとこのケースの失敗の可能性はかなり少なくすることができるでしょう。
1つコツをお伝えすると、「『感性』をできるだけ『言語化』する」ことを意識するとクオリティや好みという言葉の解像度が上がりやすくなります。
コミュニケーションがスムーズにいかなかった
動画制作に限らず、クリエイティブ制作の進行の際にはコミュニケーションの頻度と濃度が高くなります。そのため、ちょっとしたズレが違和感になり、その違和感が継続してしまうことで動画のクオリティに影響を及ぼしてしまうことがあります。
このパターンの原因としては、
- 制作会社側が顧客側のビジネスについて理解していない
- 担当者同士の相性が悪い
の大きく2つです。
1:制作会社側が顧客側のビジネスについて理解していない
制作会社側が、クライアントのビジネスについて最低限理解できていないと、顧客側の考えや意図を汲み取ることができずコミュニケーションの齟齬が生まれやすくなります。
制作会社側の営業担当者がどれくらい自社のビジネスについて理解しているかは、商談の場である程度顧客側の担当者も把握できそうですが、なぜそのようなことが起きてしまうのでしょうか。
それは、顧客側の発注理由の1つに「制作実績が豊富である」という点が多分に影響しているからです。
「今回制作したい動画と似た実績がある」「自社と近い事業領域のクライアントがいる」なども含めて発注理由に上がることは多くあります。
しかし、その制作会社の実績と目の前にいる営業担当者の力量は全く別物です。
制作会社にも新人の営業担当もいれば、ベテランの営業担当もいるため、制作会社の実績は判断材料の1つとしては有効ですが、「決め手」にしてしまうには危険だと筆者は考えます。
2:担当者同士の相性が悪い
誰が悪いでもなく、ただただ相性が悪い…というケースも存在します。制作会社側も顧客側も仕事として向き合っているため、「向こうの担当者と合わないので変えてください」とは言えず、「合わないな…」と思いながら進めていると、トラブルになってしまうことは多くはありませんが、あります。
筆者にも経験があるため、制作会社に在籍していたころは「合わないな…」と感じたお客様には積極的に営業しないようにしていました。繰り返しになりますが、動画制作の進行時にはコミュニケーションの頻度・濃度が高くなるため、事前に回避できるリスクは回避しておくべきで、「相性」は意外と馬鹿にできません。「合う」必要は必ずしもありませんが、「合わない」のであれば避けるべきでしょう。
先ほど例にあげた「制作会社の豊富な実績が魅力的」な場合であっても営業担当者と合わないのであれば避けるべきです。どうしてもその会社と取引がしたい場合には、思い切って担当を変えてほしい旨を伝えましょう。
納期が大幅にずれた
納期が大幅にずれる…というのは、「想定外の何かが起きた時」なのですが多いのは
- 制作過程の制作会社からのアウトプットの質が低い
- 顧客側のフィードバックが曖昧、言ってることが変わる
…という2つのパターンです。
1:制作過程の制作会社からのアウトプットの質が低い
制作過程におけるアウトプットなので、必ずしもそれが最終成果物のクオリティに反映されるわけではないのですが、ココで問題なのは「制作過程のアウトプットが期待値を下回ることで顧客側が制作会社への信頼を無くす」ことです。
それによって、スムーズに進行できていれいば気にしなくても良かったことが気になってしまい「あれはどうなってる?」「これはどういうこと?」と顧客側は疑心暗鬼になり、細かく確認することになります。
制作会社としては、「その質問意味ある…?」と思いながらも明確な回答をせざるを得ないため、「どう答えると安心してもらえるだろうか?」を「ウソのない範囲」で用意するために右往左往し、動画制作にはあまり影響のないことに多大なリソースを割いてしまう…という悪循環が生まれてしまいます。
そうすると、確認に次ぐ確認で納期が延びてしまうというのは1つのパターンです。
2:顧客側のフィードバックが曖昧、言ってることが変わる
「クオリティについての認識の相違」の部分でも触れましたが、動画についてのフィードバックや要望が曖昧になってしまうと、制作会社としては非常に動きづらく、「正解でも不正解でもなさそうなもの」を少しずつ出しながら正解を探る作業を強いられてしまうことがあります。
また、当初は「近未来風でSFっぽい雰囲気が良い」と言っていたのに「テロップは明朝体がいい」など、クリエイティブ的に矛盾したオーダーを受けるようなことがあると、制作現場は混乱してしまいます。
少し極端な例ではありますが、このようなことが起きないように、事前に社内を調整しておくことが必要なこともあるため、自社がどのような意思決定フローであるかや上司のキャラクターなどは事前に把握したうえで進めるのがポイントです。
動画制作を成功させることは、簡単ではない。
いかがでしたでしょうか。長くなりましたが、「失敗」することは決して多くはないものの「失敗」に至るポイントはたくさんあり、少しでも気を抜いてしまうとその沼にハマってしまいがちです。
では、どうすれば動画制作を成功させることができるかというと「それぞれがそれぞれの役割を全うすること」です。
もう少し具体的に言うと、動画制作については基本的に演出や表現などのクリエイティブな部分はプロに任せて、顧客側は「これで言いたいことが伝わるか」「目的は達成できそうか」「NGな表現は無いか」などに集中するというのが成功する必勝パターンです。
もちろん、その手前の制作パートナーを選ぶ段階も非常に重要なのですが、その点については下記の記事で説明しているのでぜひご参考ください。