「モーショングラフィックス動画を制作したいが、どこから始めればよいかわからない」「外注先の選定で失敗したくない」「適正な予算や期間がわからない」——企業のマーケティング担当者や営業企画担当者にとって、効果的なモーショングラフィックス動画の制作・外注は重要な課題です。
本記事では、予算30万円から200万円超のモーショングラフィックス動画制作について、失敗を回避し成果を最大化するための実務ガイドを解説します。相場・制作期間・技術仕様・発注チェックリストまで、外注を成功させるための要点を網羅します。
この記事の要点
- 対象読者:営業企画・PM・PdM・Webマーケ・事業責任者の外注検討者。
- コスト帯:30〜60万円=基本/80〜120万円=標準/150万円〜=高品質・多言語。
- 納期目安:標準4〜6週間、短納期2週間〜(割増10〜30%)。
- 成果設計:用途別KPI・媒体別の最適尺・計測イベント(progress_25/50/100、CTAクリック)。
- 次アクション:RFPチェック→見積もり比較→仕様確定→SLA合意→実機テスト。
用語の注釈(初出まとめ)
- KPI:重要業績評価指標。達成状況を数値で測る指標。
- SLA:サービス水準合意。レビュー期限などの合意基準。
- RACI:役割分担の枠組み(Responsible/Accountable/Consulted/Informed)。
- LUFS:ラウドネス単位。音量の平均基準(−23 LUFSは配信の推奨目安)。
- ProRes:高品質なAppleの中間コーデック。編集耐性に優れる。
- ビットレート:1秒あたりのデータ量。数値が大きいほど高画質になりやすい。
- アスペクト比:画面の縦横比(例:16:9、9:16)。
モーショングラフィックス動画制作のよくある不安と落とし穴

モーショングラフィックス動画の外注で多くの企業が直面する課題は次のとおりです。
- 予算設定の難しさ:「30万円と150万円で何が違うのかわからない」
- 仕様変更のリスク:「途中で要件が変わり、追加費用が発生した」
- 品質の判断基準:「完成した動画が期待と違った」
- スケジュール管理:「承認待ちで納期が遅れた」
- 技術仕様の複雑さ:「アスペクト比や解像度の設定で迷った」
本記事では、これらの課題に対する具体的な解決策と、すぐに使える実務テンプレートを提示します。
まず決めるべき3つの要素
用途別KPIの設定
効果的な動画制作の第一歩は、明確なKPI(重要業績評価指標)の設定です。用途に応じて適切な指標と測定方法を決めましょう。
用途 | 主要KPI | 測定方法 | 目標値の目安 |
---|---|---|---|
認知拡大 | 再生回数/リーチ数 | SNS分析、YouTube Studio | 月間10,000再生以上 |
理解促進 | 再生完了率/滞在時間 | Google Analytics、動画プラットフォーム | 完了率50%以上 |
コンバージョン | CTR/CV数 | 広告管理画面、GA4 | CTR 2%以上 |
採用強化 | 応募数/エントリー率 | 採用管理システム | 前年比150%以上 |
媒体別の最適尺と冒頭3秒設計
配信媒体によって、最適な動画の長さと冒頭の見せ方が変わります。アスペクト比(画面の縦横比)も合わせて検討します。
媒体 | 最適尺 | アスペクト比 | 冒頭3秒のポイント |
---|---|---|---|
YouTube | 60〜90秒 | 16:9 | サムネイルとの整合性、問題提起で関心を喚起 |
Instagram/TikTok | 15〜30秒 | 9:16 | 視覚的インパクト、無音でも伝わる設計 |
展示会ブース | 90〜180秒 | 16:9 | ループ対応、遠距離からの視認性 |
Webサイト | 30〜60秒 | 16:9 | ページ内容と連動、必要に応じて自動再生 |
CTA設計の重要性
- 目的の明確化:「認知」「理解」「行動」のどれを重視するかを決定します。
- ターゲット設定:職種・課題・検索背景を具体化します。
- 指標設定:測定可能で具体的なKPIを設定します。
- CTA(行動喚起)配置:動画内・動画後・ランディングページで導線を設計します。
モーショングラフィックス動画|予算別の現実的な制作範囲
制作費は、求める品質と制作範囲で大きく変わります。以下は予算別の現実的な内容です。
価格帯(税別) | 制作範囲 | 修正回数 | 納期目安 | 想定クオリティ | 適用用途 |
---|---|---|---|---|---|
30〜60万円 | 企画・デザイン・基本アニメーション | 2回 | 3〜4週間 | シンプルな動き、基本的な表現 | Web・SNS |
80〜120万円 | 上記+高度なアニメーション・音響 | 3回 | 4〜6週間 | 滑らかな動き、ブランド統一 | 展示会・営業資料 |
150万円〜 | 上記+複雑な表現・多言語対応 | 4回 | 6〜8週間 | 映像レベルの品質 | IR・ブランディング |
モーショングラフィックス動画の制作費・予算についての詳しい解説はこちら

スケジュールと進行管理

効率的な進行には、明確なスケジュールとRACIによる役割分担が重要です。RACIは、Responsible(実行)/Accountable(最終責任)/Consulted(相談先)/Informed(報告先)の略です。
工程 | 制作側作業 | 発注側の役割 | 所要期間 | 成果物 |
---|---|---|---|---|
要件定義 | ヒアリング・提案書作成 | 目的・KPI・素材準備 | 3〜5日 | 企画書・見積書 |
企画構成 | 絵コンテ・構成案作成 | 内容確認・承認 | 5〜7日 | 絵コンテ・構成案 |
デザイン | スタイルフレーム制作 | デザイン確認・修正指示 | 7〜10日 | スタイルフレーム |
アニメーション | 動画制作・ラフ版作成 | 動きの確認・修正指示 | 10〜14日 | ラフ版動画 |
整音・仕上げ | 音響・最終調整 | 最終確認・承認 | 3〜5日 | 完成版動画 |
納品 | 各種形式での書き出し | 受領確認・検収 | 1〜2日 | 納品データ一式 |
RACI表による役割分担
プロジェクトの成功には、誰が何に責任を持つかを明確にすることが欠かせません。RACIを活用して責任範囲を共有しましょう。
- R(Responsible):実行責任者
- A(Accountable):説明責任者・最終決定者
- C(Consulted):相談される人
- I(Informed):報告を受ける人
レビューSLA(48時間ルール)
遅延を防ぐため、各工程のレビュー期限を48時間以内(SLA:サービス水準合意)に設定することを推奨します。これにより全体スケジュールの見通しが立ちやすくなります。
モーショングラフィックス動画の制作スケジュールについての詳しい解説はこちら

制作・外注時の技術仕様の決め方
配信媒体に合わせた技術仕様の設定は、品質と効果に直結します。アスペクト比(縦横比)、フレームレート(1秒あたりのコマ数)、ビットレート(データ量の目安)を意識して決めましょう。
媒体 | コーデック | アスペクト比 | 解像度 | フレームレート | ビットレート目安 | 音声 | ループ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
YouTube | H.264 | 16:9 | 1920×1080 | 30fps | 15〜25Mbps | 必須 | 不要 |
H.264 | 9:16 | 1080×1920 | 30fps | 10〜15Mbps | 推奨 | 対応 | |
展示会 | H.264/ProRes | 16:9 | 1920×1080 | 30fps | 25〜50Mbps | オプション | 必須 |
Webサイト | H.264 | 16:9 | 1920×1080 | 30fps | 8〜15Mbps | オプション | 推奨 |
実機テスト手順
- 展示会用:実機ディスプレイでのループ(繰り返し)再生テスト
- モバイル用:主要端末での表示・音量確認
- Web用:主要ブラウザでの再生確認
- 音声:ラウドネス基準(−23 LUFS)を満たすか確認
品質基準とチェックポイント
完成動画を客観的に評価するための基準を整理しました。必ずしもすべてを満たす必要はありませんが、動画制作の目的や動画の役割に応じて必要な項目をクリアすることをおすすめします。
項目 | 良い例 | 改善が必要な例 |
---|---|---|
メッセージ伝達 | 3秒以内に主要メッセージが理解できる | 何を伝えたいかが不明確 |
ブランド整合性 | 既存ブランドガイドラインと一致 | 色調やフォントが統一されていない |
視認性 | 5メートル離れても文字が読める | 文字が小さすぎて読めない |
動きの品質 | 滑らかで自然なアニメーション | カクつきや不自然な動き |
音声品質 | クリアで聞き取りやすいナレーション | ノイズや音量のばらつき |
ブランド整合性の確保
ブランドガイドラインとの整合は、信頼性と効果に直結します。以下を事前に整理して共有しましょう(BGMやフォントは商用ライセンスの確認を推奨)。
- ブランドカラー(メイン・サブ)
- フォント(日本語・英語)
- ロゴの使用ルール
- トーン&マナー(フォーマル/カジュアル)
- 禁止表現・競合他社への言及方針
見積もり・契約の読み方
見積もりの評価には、費用内訳の標準構成を理解しておくことが有効です。
工程 | 費用割合 | 60万円の場合 | 120万円の場合 | 内容 |
---|---|---|---|---|
企画・構成 | 20% | 12万円 | 24万円 | ヒアリング、絵コンテ、構成案 |
デザイン制作 | 30% | 18万円 | 36万円 | スタイルフレーム、素材制作 |
アニメーション | 35% | 21万円 | 42万円 | 動きの制作、エフェクト |
音響・整音 | 10% | 6万円 | 12万円 | BGM、効果音、ナレーション |
進行管理 | 5% | 3万円 | 6万円 | プロジェクト管理、修正対応 |
契約文言テンプレ(抜粋)
修正範囲は「軽微の修正(文字・色調整)」を2回までとし、構成変更以上は別途御見積とします。
修正範囲
本件で生成・編集された最終成果物の著作権は発注者に帰属します。元データの著作権は制作会社に帰属します。
権利帰属
利用範囲はWeb/SNS/展示会とし、TV放映・屋外広告(OOH)は別途ライセンス契約を締結します。
利用範囲
プロジェクトファイルは納品日から180日間保管し、以降の保管は別途費用となります。
データ保管
見積もり・契約で迷ったら:事例PDFで比較観点を確認→無料見積もり→15分相談で要件整理
修正回数と範囲の明確化
追加費用を防ぐには、修正回数と対象範囲を契約時に明確化することが重要です。
- 軽微な修正:文字修正・色調整(追加費用なし)
- 中程度の修正:構成変更・素材差し替え(5〜10万円)
- 大幅な修正:コンセプト変更・全面作り直し(制作費の30〜50%)
権利・利用範囲・データ保管
契約時に確認すべき権利関係を整理します(BGM・フォント・素材は商用ライセンスの有無を必ず確認)。
- 著作権:制作会社と発注者のどちらに帰属するか
- 利用範囲:Web・SNS・展示会・TVなどの使用可否
- 利用期間:永続利用か期間限定か
- 二次利用:編集・改変・派生制作の可否
- データ保管:プロジェクトファイルの保管期間と提供可否
失敗回避とリスク対応

よくある失敗パターンと回避策、発生しがちな追加費用の目安をまとめます。
よくある失敗 | 回避策 | 追加費用目安 |
---|---|---|
仕様変更による工数増 | 要件定義の徹底、変更管理ルールの事前合意 | 制作費の20〜50% |
承認遅延によるスケジュール圧迫 | RACI作成、48時間SLAの設定 | 短納期割増10〜30% |
技術仕様の不備 | 媒体仕様の事前確認、実機テスト | 再制作費用50〜100% |
ブランドガイドライン違反 | ガイドライン共有、チェック工程の追加 | 修正費用10〜30万円 |
音響・ナレーションの品質不備 | サンプル確認、プロ起用の検討 | 再収録費用5〜20万円 |
仕様変更時の判断基準
進行中の仕様変更は避けられない場合があります。影響度別に判断基準を設けて対応します。
- 影響度:軽微 — 文字修正・色調整(追加費用なし、1〜2日)
- 影響度:中 — 構成変更・素材差し替え(5〜15万円、3〜5日)
- 影響度:大 — コンセプト変更(制作費の30〜50%、1〜2週間)
短納期運用のコツ
短納期でも品質を担保するために、次のポイントを徹底します。
- 素材の事前準備:ロゴ・写真・既存動画は制作開始前に用意します。
- 決裁者の限定:承認者を1〜2名に絞り、意思決定を迅速化します。
- 修正回数の制限:1〜2回に限定し、指示は一括で提出します。
- 並行作業の活用:音響制作とアニメーション制作を並行します。
モーショングラフィックス動画|業界別ベストプラクティス
SaaS業界:データ可視化の型
SaaSでは、複雑なデータや機能を視覚的に説明する設計が効果的です。
- ダッシュボードのアニメーション表示
- データフローの動的表現
- Before/Afterの比較演出
- API連携の可視化
- ユーザージャーニーのストーリー化
製造業:断面図・工程アニメーション
製造業では、内部構造や製造プロセスの可視化が有効です。
- 3D断面図による内部構造の説明
- 製造工程のステップ表示
- 品質管理プロセスの可視化
- 安全機能の動作原理説明
- メンテナンス手順のガイド
金融業界:数値主導表現
金融では、数値やグラフを中心に据えた表現が信頼性を高めます。
- 投資パフォーマンスのグラフアニメーション
- リスク分散の視覚的説明
- 金利変動の影響シミュレーション
- ポートフォリオ構成の動的表示
- 規制対応プロセスの図解
モーショングラフィックス動画の事例については、こちらの記事で詳しく解説しています。

RFP・要件定義テンプレート
効果的な外注には、明確な要件定義が不可欠です。以下のチェックリストを使い、漏れなく整理しましょう。
- 背景・目的:制作背景、目標、成功指標
- ターゲット:想定視聴者の属性・課題・視聴環境
- KPI・指標:測定可能な具体的な数値
- 媒体・配信:YouTube、SNS、展示会、Webサイトなど
- 技術仕様:尺・アスペクト比・解像度・フレームレート
- 素材準備:提供可能な既存素材(ロゴ・写真・動画)
- 納期・スケジュール:希望納期と中間確認のタイミング
- 予算:制作費の上限と修正費用の考え方
- 承認者・体制:意思決定者、承認フロー、連絡窓口
- 修正回数:想定回数と範囲
- 利用範囲:使用期間・使用媒体・二次利用の可否
- 納品形式:ファイル形式・解像度・バックアップの要否
- 禁止表現:使用不可の表現、競合への言及方針
GA4/計測のミニテンプレ
イベント名 | 推奨パラメータ | 用途 |
---|---|---|
view_video | video_id、page_path | 視聴開始の把握 |
progress_25/50/100 | video_id、percent | 再生到達率の把握 |
cta_click | cta_type、video_id、page_path | CTAの効果測定 |
ご相談はこちら:要件の整理・仕様の決定・スケジュール策定を短時間で並走支援します。
モーショングラフィックス動画の制作をご検討でしたら、お気軽にご相談くださいませ。
よくある質問
- 標準的な制作期間はどの程度ですか?
-
60秒程度の動画で4〜6週間が標準です。企画・構成に1週間、デザイン制作に1〜2週間、アニメーション制作に2〜3週間を要します。短納期の場合は2週間から対応可能ですが、10〜30%の割増料金が発生します。
- 修正回数はどの程度まで対応してもらえますか?
-
一般的に2〜3回の修正が標準契約に含まれます。軽微な修正(文字・色調整)は回数に含まれないことが多く、大幅な方向性変更は追加費用(5〜15万円)が発生します。
- アスペクト比を後から変更できますか?
-
可能です。ただし、レイアウトの大幅調整が必要になる場合があります。16:9から9:16への変更は工数が増えるため、企画段階で複数比率の展開を計画することを推奨します。
- 展示会とWebサイトで兼用できる動画は制作可能ですか?
-
可能です。展示会は無音・ループ再生、Webは音声ありなど要件が異なるため、字幕配置や視認性を考慮した設計が必要です。
- 納品される動画の仕様を教えてください。
-
標準はH.264のMP4、1920×1080、29.97fps、15〜25Mbpsです。用途によりProRes(高品質コーデック)や4Kでの納品も可能ですが、追加費用が発生する場合があります。
まとめ:成功する外注のためのチェックリスト
モーショングラフィックス動画の外注を成功させるため、以下のチェックリストをご活用ください。
- 目的・KPI設定:具体的で測定可能な指標を設定済み
- 予算設定:制作費・修正費・追加費用の上限を明確化
- 技術仕様確定:尺・アスペクト比・解像度・配信媒体を決定
- 素材準備:ロゴ・写真・既存動画・ブランドガイドラインを用意
- スケジュール管理:RACI表・48時間SLA・承認フローを設定
- 品質基準:ブランド整合性・視認性・メッセージ伝達の基準を明確化
- 契約条件:修正回数・利用範囲・権利関係を事前確認
- リスク対策:仕様変更・承認遅延への対応策を準備
- 効果測定:公開後のKPIと計測方法を事前設計
- 運用計画:多言語展開・派生制作・更新計画を検討
以上のポイントを押さえることで、期待どおりの成果につながる動画制作が実現しやすくなります。不明点がある場合は、制作開始前に制作会社と十分にすり合わせ、認識のズレを防ぐことが大切です。
情報整理や予算の検討などの事前準備がご不安な方は筆者がお手伝いいたします。
是非、下のボタンからお気軽にお問い合わせください。