モーショングラフィックス動画制作の外注ガイド|目的設定・要件整理・失敗回避

「モーショングラフィックス(MG)動画を制作したいが、どこから手を付ければいいかわからない」「制作会社に依頼するとき、押さえるべきポイントを知りたい」――マーケティングや広報、採用、展示会の担当者にとって、外注制作の準備は迷いどころが多いテーマです。自社で編集するわけではなく、発注側として決めるべきこと、確認すべきことを押さえることで、制作会社とのやり取りがスムーズになり、成果に直結します。

この記事では、予算30万〜200万円超でモーショングラフィックス動画を外注するケースを想定し、発注側が知っておくべき情報設計、制作期間の目安、役割分担、チェックポイントなどを解説します。企画から納品までの流れを俯瞰し、制作のプロが実践する成功原則を発注側視点でまとめました。

目次

この記事の要点

  • 目的とKPIを明確にする:コンバージョン率、展示会での滞在時間、認知度、採用応募数など、動画で達成したい指標を初めに決める。
  • 仕様と制約を企画段階で確定:尺(15〜30秒/60〜90秒)、アスペクト比(16:9・9:16・1:1)、解像度(FHD・4K)、フレームレート(30fps・60fps)、無音/ループ再生の有無を最初に定義。
  • ブランド整合性を担保する:ロゴ・カラー・フォント・レイアウトなどのガイドラインを準備し、スタイルフレームの段階で確認する。
  • 制作期間と役割を把握:標準7〜8週、短納期5〜6週、特急4週モデルの違いを理解し、RACI表とレビューSLAを設定する。
  • 権利と品質チェック:ナレーション・BGM・フォントのライセンス、利用範囲を確認し、納品前に技術テストと実機確認を行う。
  • 予算に応じた戦略:30〜60万は素材活用とテンプレ中心、60〜120万はオリジナル制作、150万以上は世界観構築と多言語展開。
  • 発注チェックリストで漏れを防ぐ:目的・視聴環境・仕様・権利・修正回数・納期・担当窓口などを網羅したリストを使い、契約前に確認する。

目的とKPIを決める

制作会社への発注書やブリーフィングの第一歩は「なぜこの動画を作るのか」を数値で表すことです。例えば、Webサイトのコンバージョン率を15%向上させたい、展示会ブースの滞在時間を平均3分から5分に伸ばしたい、指名検索数を30%増やしたい、採用応募数を25%増やしたい、といった具体的なKPIを設定します。目的が明確であれば、制作会社は構成や演出の優先順位をつけやすく、成果が測定しやすくなります。

企画段階で確定すべき技術仕様

動画の仕様変更は制作工数と費用に直結するため、以下のような項目を企画段階で固めておくことが重要です。

項目推奨設定発注時のポイント
展示会:15〜30秒
Web:60〜90秒
用途に応じた長さにし、長尺は情報の優先順位を決めて構成
アスペクト比16:9(横)/9:16(縦)/1:1(正方形)配信媒体やモニターの仕様に合わせる。縦横両対応ならセーフエリアを意識したレイアウトを初期設計に
解像度FHD(1920×1080)/4K(3840×2160)4Kは美麗だが制作費とデータ容量が増える。使用場所や予算に応じて選択
フレームレート30fps(標準)/60fps(滑らか)動きの滑らかさとデータ容量のバランスを考慮。特殊演出がない場合は30fpsで十分
音声・ループあり/なし/選択可能
ループ対応可否
展示会やサイネージは無音・ループが基本。WebやSNSは音声と字幕の有無を決めておく
仕様は企画段階で確定し、途中変更は極力避ける

ブランド整合性を担保する

動画が自社ブランドのトーン&マナーに沿うように、ロゴデータ、カラーコード、フォント名、レイアウト基準などのブランドガイドラインを準備します。スタイルフレーム(style frame:静止画のデザイン例)を制作会社から受け取ったら、以下の観点で確認します。

  • タイポグラフィ:既存ブランドフォントを使用し、可読性を確保する。ゴシック体は視認性重視、明朝体は高級感演出など意図を明確に。
  • 色彩設計:ブランドカラーを適切に使用し、背景と文字のコントラスト比4.5:1以上を目指す。
  • 余白とレイアウト:統一したグリッドシステムを採用し、情報の優先順位が一目で分かるように設計。
  • アイコン・イラスト:同じ線幅・サイズ・スタイルで統一し、拡大縮小しても見栄えが崩れないか確認。

制作期間と役割分担

制作期間は動画の内容や体制によって変わりますが、モーショングラフィックス動画では大まかに以下の3モデルが想定されます。発注側は、いつ誰がどの工程に関わり、どの段階で承認が必要かを理解しておきましょう。

モデル期間修正回数特徴
標準モデル7〜8週間2〜3回企画から納品までじっくり進行し、品質を重視
短納期モデル5〜6週間1〜2回工程を並行して進める。修正回数や検討時間を減らす必要あり
特急モデル4週間1回既存素材活用・テンプレート使用が前提。大幅な演出は不可

各モデルで発注者が担当する主な役割は次の通りです:

  • 担当者(R):制作会社との窓口となり、企画段階の要件定義や素材提供、進行管理を行う。
  • 決裁者(A):要件定義・構成案・スタイルフレーム・最終納品の承認を行う。動画仕様の変更や予算追加など重要な判断を担当。
  • 協力者(C):社内の関係部署(ブランド担当・製品担当など)で、必要な情報や素材を提供し、内容の適正を確認。
  • 報告先(I):最終成果物や進行状況を共有するだけの立場。関与度合いは低いが、連絡網に含めておく。

レビュー運用では、各段階の承認期限を明確にしたSLA(サービスレベル合意)を設定します。例えば「初稿のフィードバックは受領後48時間以内」「修正は2回まで」などを事前に合意すると、スケジュール遅延を防げます。また、承認者が長期不在の場合に備えて代理承認者を決めておきます。

モーショングラフィックス動画の制作期間・スケジュールはこちらで詳しく解説しています。

企画〜プリプロ段階のチェックポイント

要件定義が曖昧だと、後工程での修正が増え、費用と納期に跳ね返ります。以下のチェックリストを活用し、制作会社に共有するブリーフィング資料を作成しましょう。

  • 目的・KPI:動画の目的と測定指標(数値目標)を明示する。
  • ターゲット:想定視聴者の属性(年齢層・職種・興味関心など)。
  • メッセージ:最も伝えたいポイントは何か。
  • 尺:最大・最小を決め、情報密度を調整する。
  • 納期:最終納品日と中間レビューの期日。
  • 媒体:Web、SNS、展示会、サイネージなど配信先を列記。
  • 利用範囲:期間(例:1年間)・地域(国内・海外)・媒体の制限を明記。
  • 素材準備:ロゴデータ、写真・映像素材、製品3Dデータ、ブランドガイドラインなど、支給可能な素材を整理。

制作期間と承認フロー

一般的なモーショングラフィックス動画の制作工程は以下の通りです。発注側は各工程での確認ポイントと役割を把握しておきます。

工程主な作業発注側の役割所要期間の目安
要件定義目的・KPI・視聴環境の確認、素材収集担当者が制作会社へブリーフィング、決裁者は目標承認1週間
企画・構成シナリオ作成、絵コンテ制作初稿の確認・フィードバック、方向性の確定1〜2週間
デザインスタイルフレーム作成、アセットデザインブランド整合性チェック、承認1〜2週間
アニメーションモーション制作、ラフ→本制作ラフアニメーションの確認・修正指示2〜3週間
音響・整音ナレーション・BGMの手配と整音、字幕制作原稿提供、ナレーター選定、ライセンス確認1週間
仕上げ・納品最終調整、書き出し、実機テスト検収、承認、バックアップの受領数日〜1週間
制作工程と発注側の役割(期間は目安)

展示会やサイネージで使う場合は、無音でも理解できるようテロップやグラフィックスで情報を補う構成にする必要があります。また、ループ再生に対応するため、動画の最後と最初を自然につなげる編集が必須です。3〜5メートル離れても読める文字サイズ(目安24pt以上)を採用し、長尺のテロップは分割するなどの配慮を行います。

権利関係と技術チェック

ライセンスの不備や仕様ミスは後から大きな問題となるため、発注段階で次の点を確認します。

  • ナレーション:外部ナレーターを起用する場合は権利譲渡契約を締結し、二次利用の範囲を明記。
  • BGM・効果音:著作権フリー素材でも利用範囲(商用利用可否、期間)の確認が必要。ライセンスを制作会社に提示してもらう。
  • フォント:商用利用ライセンスを確認し、埋め込み権限の有無を確かめる。
  • 利用範囲:動画の使用期間・媒体・地域を契約書に明記し、超過する場合の追加費用を決めておく。
  • 技術チェック:納品前に解像度・フレームレート・ビットレート・色空間(Rec.709)・レンジ/ガンマ設定を仕様書と照合。ラウドネス(-16〜-14LUFS、True Peak -1 dBTP 以内)も目安に。
  • 実機テスト:展示会やサイネージで実際に再生し、ループ再生・無音再生・明るさなどを確認する。

モーショングラフィックス動画の予算と制作戦略

予算に応じて、制作の範囲や求めるクオリティが変わります。発注側は予算と目的を照らし合わせ、どこに投資するかを決めましょう。

30〜60万円:効率重視モデル

  • 素材活用:既存写真・ロゴ・アセットを最大限に使い、素材購入費を抑える。
  • テンプレート活用:汎用テンプレートや既成のモーションを使用し、制作コストと期間を削減。
  • シンプル演出:複雑なアニメーションや3D表現は避け、情報の伝達を優先する。

60〜120万円:バランス重視モデル

  • オリジナル制作:専用イラストやアイコン、オリジナルモーショングラフィックスを制作。
  • 演出最適化:ブランドに沿ったカスタムアニメーションやインフォグラフィックを組み込む。
  • 音響強化:プロのナレーターとオリジナルBGMを導入し、印象を高める。

150万円〜:世界観構築モデル

  • 世界観構築:独自のビジュアルスタイルを0から設計し、ブランデッドムービーとしての価値を高める。
  • 高度モーション:3Dアニメーションや複雑なエフェクトを活用し、没入感を演出する。
  • 多言語展開:字幕やナレーションの多言語対応を施し、海外市場にも拡張する。

モーショングラフィックス動画の活用事例はこちらで詳しく解説しています。

【コピペOK】発注チェックリスト

  • 目的・KPI:数値目標と評価方法
  • 想定視聴環境:Web、SNS、展示会、サイネージなど
  • 尺:秒数の上限・下限を設定
  • アスペクト比:16:9/9:16/1:1 など
  • 解像度:FHD/4K
  • フレームレート:30fps/60fps
  • 音声:あり・なし・選択可能
  • 字幕:必要・不要
  • ループ対応:必要・不要
  • 納期:最終納品日と中間マイルストーン
  • 修正回数:含まれる回数と追加費用
  • 権利関係:著作権の帰属・利用範囲
  • 利用範囲:期間・地域・媒体
  • 納品形式:MP4/MOV/その他
  • バックアップ:プロジェクトファイルの保管有無
  • 担当窓口:連絡先と承認フロー

モーショングラフィックス動画の制作をご検討でしたら、お気軽にご相談くださいませ。

よくある質問

Webと展示会で同じ動画を使い回せますか?

基本構成は共通化できますが、音声の有無・文字サイズ・ループ設計が異なるため、比率や尺、テロップ密度を調整した派生版の制作を推奨します。展示会向けは無音・ループ仕様、Web向けは音声あり/字幕ありを想定すると良いでしょう。

社内承認が多くて進みません。何から手を打つべきでしょう?

初回打ち合わせでRACI(役割分担)とレビューSLA(48時間)を合意し、決裁者の事前確保と差し戻し基準(軽微・中・大)を文書化します。レビュー期限を明確にすることで承認滞留を減らせます。

制作途中でアスペクト比を変更したい場合は?

デザイン以降で比率を変えると工数が大幅に増加するため、企画〜デザイン段階で決めるのが理想です。縦横併用が必要な場合は、セーフエリアを考慮したレイアウトを初期設計に取り入れましょう。

データ納品時の推奨仕様は?

配信用は例として「H.264 MP4 / 1080p / 29.97fps / 15〜25 Mbps」が汎用的です。展示会用のマスターは劣化を避けるためProRes 422形式を併納します。色空間(Rec.709)、レンジ(0–255または16–235)、ガンマ2.4などの設定も仕様書に明記してください。

短納期でも品質を落とさず制作できますか?

可能ですが、事前準備と効率的な進行管理が必須です。素材の事前準備、決裁者の限定、修正回数の制限を前提に、短納期モデルで5〜6週間、特急モデルで4週間まで圧縮できます。なお、10〜20%の割増費用が発生する場合があります。

モーショングラフィックス動画の制作をご検討でしたら、お気軽にご相談くださいませ。

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この記事を書いた人

【株式会社case 代表取締役/動画制作プロデューサー】加藤智史
新卒で入社した動画制作会社で広告・マーケティング・採用・人材研修など約400本の動画制作に携わる。その後、TVCMなどの制作を行う、大手制作会社にアカウントエグゼクティブとしてジョイン。数千万円規模のプロモーション案件に携わり、動画にとどまらないクリエイティブ制作やプロジェクトマネジメントを経験。現在は本メディアの運営を通じた企業の動画制作支援や、動画制作会社の営業支援などを行う。動画制作のご依頼の流れはコチラ

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